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　読んでみて、怖かった。

　アイドルを推すあたし、あかりは高校生。

　アイドルを推すことが生活のすべて。
　学校も、家族も、バイトも、全部あかりを取り巻く世間。その中を流されていくようなあかり。
　あかりが生きがいにするのは、アイドルを推すこと。

　順番が間違ってるよ、しっかり勉強しないと。きちんとバイトしないと。
　そんな私の気持ちは、あたしの強い気持ちに負ける。強いあたしに取り込まれてしまう。

　しかし、そんなにアイドルに入れ上げていいの？
　ＣＤ買わされて、ステージに追っかけして。所詮、営業やってるだけなのに、そんなにつぎ込んでいいの？
　いや。あたしは推しの姿をいつも見て、推しの気持ちの微妙なあやが判る。
　そして推しを解釈し、その姿をブログに残す。それが唯一自分がやりたいこと。

　あたしの思いの強さに、あたしの先行きに、一体化した私はもう抜けられない。

　冒頭から、推しはファンを殴り、状況は炎上する。
　推しの世界は疾走する。それに附くあたしには、自分を思いやるゆとりがない。
　引きずり込まれた私にも、じっくり考える余裕が無い。一緒に流される。
　流されながら、こんなことしてちゃまずい、絶対まずい。焦燥感が起こるが、あたしを引き戻すことはできない。

　推しと一緒に、行き着くところまで、と気が走るあかり。
　しかし世間はまずいほうへ暗転する。高校を中退。バイトは馘。家族から捨てられかける。焦るのは私。
　推しとの関係もいつの間にか浮いてくる。
　推しが同棲しているとうわさが立つ。やがて、同棲相手は殴ったファンだと伝わる。
　何が何だか分からない。

　そして推しが引退宣言する。

　どん底に落ちたあかりに壁は高く、あかりの頭は混濁している・・・残されたのは生命力だけか・・・それすらも判然としない。
　怖い。

　もっと怖いのは、あかりに負の要素があるから、落ちてしまったわけではないことに気がついたとき。
　今は、世間に浮かんでいる為だけに走っていなければならない。
　しなければならないことに追いかけられる私と、したいことに没頭するあたしと、どちらがより良く生きていると言えるだろうか。

　本作は2020年下半期の芥川賞に選ばれた。いつもは芥川賞受賞作などあまり読まないのだが、 今回はラジオ番組で作者が取り上げられていたこと、 そして正月休みに娘が雑誌『文藝』を持って帰省したことから、先に読んで、嵌ってしまった。

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