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マラソンへ初参加

　昼食後部屋で時間つぶしたり、毎日同僚と喫茶店でだべるより、身体にい いことしたほうがまし、くらいのことで走り始めたequilibrioでした。

　それでも毎日走るうち、走る仲間が増えてきて、走友会のような集まりと なり、月一例会も始まりました。
　中には、一般のロードレースに出たり、そこでまた知人をつくったりする 仲間もでてきます。
　陸上競技協会の登録会員となり、公認大会へ参加する仲間もいました。

　しかし、equilibrioは臆病でした。
「篠山マラソンというのがある。一般ランナーでもマラソンを走れる大会だ。 一度は走ってみないと」などという声を聞きながらも、「42kmなんて普通に 走っていて走れる距離じゃあない」と堅く信じていました。

　それでも、みんなで篠山へいこうということになりました。
　10マイルレースです。
　いつも一緒に走る顔ぶれ、そのままのペースで走っていつものように前後 に順に列ができます。
　一応、このメンバーならequが一番、のはずでした。が、15kmが近づくと、 急に足がおもくなってきます。所詮は昼休みのジョグ、練習不足です。
　ゴール間際で、粘る先輩においていかれました。あとで「最後にどないし たんや」「ごますりだろう」とか言われてしまいました。

　スピードはちょっと自信があっただけに、練習の足りなさはこたえました。 若手の仲間同士で積極的に練習もするようになりました。


　 　数年はこの調子で走り続けます。


　ある年、陸上競技志向の仲間が、突然のようにフルマラソンに出はじめま した。
　３時間を切り、２時間50分を切り、あれよあれよという間に、別府大分マ ラソンへ出場です。

　　このとき、マラソン観が変わりました。
　もちろん、先頭を行くエリートランナーと競うつもりはありません。
　トップを争うようなランナー以外にも、公認マラソン大会に参加するラン ナーがいて、自分の記録を目標に努力しているのだと気づいたのです。
　そして、失礼ながら、フナちゃん（陸上志向の彼です）が別府にいけるな ら、あの別府大分マラソンで走れるなら、equだって・・・


　初めて走るマラソンは、当然のように篠山マラソンに決めました。
　当時、市民ランナーが参加できるフルマラソンなど、河口湖に篠山くらい しかありませんでしたから。

　公認資格がまだ取れていないので、まずは力試しというところです。気楽、 気楽。

　30kmの飛曽山峠までは抑えていきました。１km４分のペースで走れていま す。
　あとは下るだけ、思い切って走りました。

　先に行く、ランナーをつぎつぎ抜いて行きます。
　ちらと時計を見ると、ひょっとすると45分を切って、更に42分くらいの記 録が出るかもしれない。欲が出ます。

　35kmをすぎて坂道が終わり、フラットコースとなったとたんに、突然来ま した。ガス切れというやつです。あと、たった７km、でも、もう走りつづけ ようという気もなくなりそう。

　それでも、なんとか走りつづけました。ふらふらで、泣きそうになりなが ら・・・

　結局、30kmまでの貯金が利いてなんとか50分をきることができました。

初の公認マラソン

　走り始めた頃は、まだだれも彼もがフルマラソンを走るという時代では ありませんでした。ぼちぼちと職場近くの公園で走ること３年、初マラソン は篠山でしたが、望外の高記録に、何を血迷ったかequilibrioは陸連登録 してしまいました。

　さて、待望の陸連登録ランナー第一戦は春の福井マラソン。
　先輩に聞いて用意したのは、針と糸。陸連競技規定では、公認レースでは ランニングにゼッケンを縫い付けることになっていましたから。
　記録を期待するなら、スペシャルドリンクを要所に配置しなければ、と 缶入りポカリスエットを８個買い込み、カラーテープでぐるぐる捲きにして カスタマイズ。終盤に配置するポカリスエットには、低下する血糖値に活を 入れるべくチョコレート粒を貼りつけておきました。

　翌朝のスタート一時間前には缶コーヒーでカフェインを摂取。ちょうど 二時間後に脂肪燃焼を亢進させ、後半の爆発力を獲得しようという、ベン= ジョンソンも真っ青のドーピング？でequilibrioはスタートを待ちます。

　陸連登録ランナー第一戦の福井マラソンの号砲は既に轟き、ランナー達は 一斉に競技場を後にしました。九頭竜川が曲流する福井平野を、何度も折れ 曲がり、堤防を乗り越えながら走るマラソンは、暑く強い風が吹き抜けるレ ースとなりました。

　未公認で篠山を走ったときとは違い、折返しを過る頃から、ずるずるとペ ースが落ちます。

　しかも、なんとしたことか、スペシャルテーブルにたどり着くと、そこに は、チョコレート付で待っていてくれるはずのポカチャンスペシャルが見当 たらないではありませんか。
　ガーン!
　なんとした事だ!?!スペシャルがなければこの先僕はどうすればいいんだ。

　結局挽回ならずequilibrioは目標を２分超えてしまい、挫折と福井駅前の 苦いビールを味わうのでありました。

　その後、equilibrioは後輩たちに説くことになります。
「ええか、マラソンはルール無用の格闘技や。強い奴は何をやってもいいんや。
先に行くもんは気に入ったスペシャルドリンク、どれ飲んでもええんや。」と。

初のビッグレース

　春の福井で挫折したequilibrioは、それでも捲土重来を期し、秋には長躯、 山梨へ遠征し河口湖で公認記録を獲得します。


　翌年二月、風まだ寒い別府観光港に降りたったとき、市民ランナーの頂点に 立つ誇りで身が打ち振るう思いでした。

　しかし彼のおごりも、それまででした。
　いざ走りだした10kmすぎ、福井で懲りたのでスペシャルを出していないequi librioはゼネラルテーブルに近づくのでありますが......ない！ない！
　テーブルにはもう紙コップが残っていないではありませんか。

　しかし、ここでぐっと我慢。
　15km過ぎのゼネラルテーブル前でスパートしたequilibrioは、今度は待望の ドリンクを掴み取り、ぐっと口に含み、

　なんだこれは!　コップが砂まみれだ!!
　後塵を拝するものには、投げ捨てられたコップが相応と言う事か!

　そう、別府大分とはかくも厳しい、新人の登龍門だったのです。
　ここで走るのは当たり前、ここで勝って、はじめて有望新人としてスタート できるのだと、また一つequilibrioは後輩たちに説くことになります。

　(大会運営の皆様のご苦労は感謝しております。でもこれは10数年前の真実です。)

別府大分の思い出

　というわけで、equilibrioがはじめて別府大分マラソンに出場したのは34回大会でし た。前年の篠山で初マラソンを、11月の河口湖で、当時2時間50分の参加資格をクリア しての参加でした。

　この年の別府大分マラソンは谷口浩美の初マラソン初優勝の大会でした。谷口はスタ ート早々転倒しましたが、傷から血を流しながらの優勝です。将来を暗示してますねえ。

　その頃、私は遥か後方で、独自の戦いを戦っていました。結局、自己記録を1分縮めて ゴールした時、あのバスタオルをかけられたのです。今は前日に参加賞のバッグに収め て、もらっているようですが、当時バスタオルは完走者のみの特典でした。


　その別府大分マラソンのバスタオルなんですが、
　その日以来十数年間、そのバスタオルは風呂で一日の疲れをほぐした私の体を、優し く包んでくれていました。
　ところが、先日背中をふいているいる時、いやな音がして、思い出のバスタオルが半分 破けてしまいました。長年の使用で端からほつけていましたが、まだまだ使えるはずで す。

　「おい、破れたよ。」というと、優しい、しかし前からこれを狙っていた妻は、縫い合わせ てくれる替わりにチョキチョキと切って雑巾にしてしまいました。

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